─主題─
溶血性尿毒症症候群の疫学,治療成績に関する統計(全国調査研究より)
吉矢 邦彦*, 里村 憲一**, 神岡 一郎***
*原泌尿器科病院腎臓内科
〔〒650-0012 神戸市中央区北長狭通5-7-17〕
**大阪府立母子保健総合医療センター腎・代謝科
***神戸大学大学院医学系研究科成育医学講座小児科学
わが国における小児溶血性尿毒症症候群(HUS)患者の実態を明らかにし,重症化(透析施行,中枢神経障害)の予測因子,治療方法を検討する目的で,2001年1月~2002年12月に発症したHUSの全国調査を施行した.
HUSの症例数は,2001年134例,2002年132例,合計266症例であり,二次調査にて132名(47%)について回答が得られた.132名のうち,前駆症状として下痢を伴う典型的HUS 127名について検討を行った.平均年齢は4.7歳であり,集団発生はなく,すべて散発例であった.発症時期は,7~9月の夏期に多発していた.起因菌は腸管出血性大腸菌O-157が92%を占めた.
HUSの臨床症状として,下痢100%,血便80%,乏尿・無尿47%,発熱38%,肉眼的血尿24%を認めた.透析施行例は35例(27%)であり,中枢神経障害発症例は30例(24%),両者を合併したものは18例(14%)であった.平均観察期間16.7カ月での予後は,異常なしが101例(80%),後遺症ありが17例(13%),不明が9例(7%)であった.後遺症の内訳は,尿異常(蛋白尿,血尿)が11例,腎機能障害を残した例が1例,神経学的障害(てんかん,脳性麻痺,脳梗塞)が3例,死亡例は2例であった.
重症化を予測する因子は,HUS発症時の検査所見で血清ナトリウム130 mEq/l以下,ALTが70IU/l以上は透析加療が必要となる独立したリスクファクターであった.また透析加療が必要であること,発症時のCRPが5.0 mg/dl以上は中枢神経障害を発症する独立したリスクファクターであった.これらの因子を満たす場合はHUSが重症化することを念頭に置き,早期にかつ注意深く治療にあたる必要がある.
日本小児腎臓病学会の腸管出血性大腸菌感染に伴うHUSの診断・治療のガイドラインにおおむね準じた治療がされていると思われた.しかし,過去の調査と比較すると死亡率の改善はなく,今後もさらなる検討が必要と思われる.
小児感染免疫 19 (1):59─64,2007
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